これを教えてくださった先生とは、包丁を研ぐ砥石の店で偶然ばったり出会ったのでした。独学で制作していたために、包丁を研ぐことを思いつかず、次第に切れなくなっていく革に向き合ううちに、お風呂に入れないくらい手が痛くなってしまい、「私には無理なのかな」と見当違いな悩みを抱えていたとき、急に「あっ、包丁だったのか!」と思いつき、砥石屋を探して出かけていったのでした。
買い方や選び方が分からず、お店の人に聞いても「ここはプロがくるから、言われたものを売るだけだ」と言われて途方にくれているときに、救世主のように現れたのが白髪のおじいさん。(あとからその方が矢沢先生だと判明するのですが)お金が無かったので小さな砥石をわけてもらって帰ろうとしていると、「それであんたは研ぎ方はわかるのかい?」と「わかんねえだろうな」と書いてある顔で、茶目っ気たっぷりに笑っていました。
久しぶりにこの本をひっぱりだして、パラパラめくっていると、今日まで読んだことがなかった「あとがき」に目が留まりました。本は何度か改訂されていて、その都度、彼のメッセージが少しだけ載せてあります。私の本は、平成8年初夏に書かれたものが最後で、こんなことが書かれていました。
<できばえのよい作品をつくるには、まず包丁の研ぎから>の気持ちを、今さらながら強くしている今日この頃です。
もう改訂されても言葉が載ることは無いのがとても寂しいですが、こうして今も私を導いてくださる存在です。心からありがとうございますと伝えたいです。